第六夜
著者:shauna
再びの会話の後、今度は陸斗の番。
手に静かに蝋燭を持ち、語り出す。
これは・・・俺の友達のお兄さんの話なんすけど・・。
その人は名前を勲(イサム)っていうんすけど、当時免許取り立てだった勲さんはすぐにでも車が欲しかったそうなんす。
でも、車なんてそんなおいそれと買えるものでもないし・・・。
でもでも、そんなある日・・・
大学の同級生の友達から、知り合いが車を安く売りたがっているという話が舞い込んだんす。
当然、勲さんは興味を持って、「それ、どんな車?」と聞くと、とある有名会社の2000CCハイパワーターボエンジン搭載のラリー用四輪駆動車だと言ったそうっす。
それを聞いた勲さんは酷く惹かれて、当時会社に入社したばかりだった勲さんにはとても車なんて買えないだろうと思っていたらしいんですが、一応「いくら?」と聞くと、買って一年ぐらい程で、ハンドルやシートに始まり、足まわりに至るまでオールチューンアップされてたそうなんですが・・・二か月ぐらい前に雪の壁に突っ込んでしまって、その為にフロントを修理をしたのと、かなり走行距離があった為、50万でいいと言われたそうで・・・。
50万円なら買えない額では無い・・・勲さんはそう考えて。
それで、その知り合いを紹介してくれた友達に「悪いけど、その車、譲ってもらえるように頼んでもらえないか?」と言ったんっす。
手続きも終わり、一括で支払いもして、いよいよその車は勲さんのものになって・・・
もちろん、すぐに乗りたくなって・・・
すぐにその車を取りに行って・・・。
もちろんやっと手に入った車なんで、勲さんはすぐに乗ってせっかくの四輪駆動だったんで、雪道を飛ばしてみたくなったそうで・・・
その時の季節は冬の終りで・・・
市街地にはもう雪は残って無かったそうなんすけど・・・
ちょっと郊外に外れれば雪はまだまだ沢山積もってたそうです。
だから、勲さんはさっそく車に乗って、
エンジンをふかして・・・
いよいよ走り出したそうです。
高鳴るエンジンの音。地を踏みしめるタイヤの音。
その時はものすごく気持ちが良かったそうです。
やがて、郊外に辿り着くとやっぱり雪はものすごく残っていて・・・
ギアを四輪駆動に変えて、雪の上をまるで滑るように走ったそうです。
がっちりと四つのタイヤは地面を捉えて・・・
ものすごく気持ちが良くって・・・
多少ハンドルに癖はあったみたいですが、そんなことは気にも留めなかったそうです。
一気に峠を越えて、50万で譲ってもらった嬉しさも相まって・・・
気が付いた時には県境を通り越してたそうです。
外はもう暗くなっていて、流石にヤバいと思ったらしいです。
何しろ、免許は取り立てなのに、周りは雪の中。慣れてない上に、暗くなってきたら怖い。
勲さんはすぐに車をUターンさせて、ヘッドライトを付け、来た道を戻ったそうなんです。
でも・・・丁度その頃から・・・
ある変化が生じ始めたんです。
来る時には2時間で来れた道。
それが帰りはいつまでたっても街が見えてこなかったそうです。
「変だな〜・・・」
勲さんはそう呟きながらも車を走らせたそうです。
フッと近くの景色を見回すと、見知った山がいつもより少し遠くの左側にあったそうなんです。
「こりゃ、どうやら途中で道を間違えたな・・・」
いつもならすぐ傍に見えるその山が少し遠くにあったことから、勲さんはすぐにそう判断したらしいです。
道の両側は雪の壁で、いつの間にかそこを一人で走っていたそうです。
不安になりながらも、そのままその道を進んで・・・
そのうち段々、霧が出てきて、ライトも効きにくくなっていったようで・・・
夜も深まって気温も下がり、路面もだんだん凍結し始めて・・・
これはマズイと思いながらも、まるで霧の中を突き刺すようなヘッドライトを頼りに車を走らせたんだそうです。
そして・・・
そのうち、一本道だった道路に変化が訪れました。
ヘッドライトの光の先にうっすらと交差点が見えて来たのです。
車が近づいて行くと、それは十字路ではなく、右に行けないT字路で・・・
勲さんにしてみれば左に行きたかったので丁度良かったそうなんです。
でも、その時・・・
勲さんは普段なら絶対に考えないようなことが脳裏に浮かんだんだそうです。
辺りは一面の雪。
人も居ない。
だったら、このT字路もスピードを落とさずに一気に曲がってみよう・・・・・・そう思って、一気にハンドルを切ってしまったんです。
すると、当然、車は一気に曲がったんですが、
さっきも言いましたけど、気温が下がって、路面は凍結していたんです。
車は一気に横滑りして、それに慌てた勲さんはすぐにハンドルを切ったそうです。
でも、それが更なる悲劇を呼んでしまった。
一気に切ったせいでハンドルを取られてしまって、対向車線側にあった雪の壁目掛けて一気に突っ込む形となってしまいました。
「あ〜ぁ・・・」
と思って、勲さんは「買ったばかりの車なのに・・・」と思いながらも、一瞬諦めかけたんですが・・・
ヘッドライトの突き刺す明かりの中・・・
そこには・・・
「ん?」
小さな子供が両手を広げて「来ちゃダメ!!!」という恐怖に染まった表情をしていました。
「ヤベッ!!!!!」
勲さんは慌ててブレーキを踏んだ。急ブレーキを踏んだんですが・・・
タイヤが固定されても、凍結した路面とトバしていたせいでかなりの勢いが付いていたので、車が止まることは無く・・・
一気に雪の壁にドーーーンと衝突したんです。
と、その瞬間・・・
―グニャ・・・―
とてつもなく嫌な感触がして・・・
「うぁ・・・ヤベッ!!!!轢いちまった!!!!!」
勲さんは最悪の結果に青くなって、どうしたらいいのか考えていると・・・
眼の前の雪の壁の中から・・・
女の子の生首が、まるで投げられたバスケットボールの如く、真っ直ぐに飛び出して来て、車のフロントを滑って・・・フロントガラスに衝突したものだから・・・
「うぁああああああああ!!!!!!!!!」
と悲鳴を上げて・・・
少し落ち着いてから見てみると・・・
それは、小さな女の子の血に染まった生首で・・・
割れたフロントガラスにめり込んで、2つの目がジッと勲さんを睨んでいて・・・
そのあまりの恐怖に勲さんは歯を鳴らしながら、体を震わせて、まるで金縛りにでもあったかのように暫く動けなかったそうです・・・
すると、生首の女の子がニヤッと笑って・・・
「この車が私を轢いたんだ・・・」
その言葉と同時に耐えられない程のあまりの恐怖に、勲さんは意識を失ってしまったそうなんです。
それから、どれぐらいが経ったのか分かりませんが・・・
勲さんが目を覚まして「ヤバい!!!急いで救急車と警察に連絡しなきゃ!!」と思って飛び起きると・・・
フロントガラスには女の子のではなく、砕けた石の地蔵の首がめりこんでいたんだそうです。
「えぇっ!?」
と思って飛び出して、車の前に行ってみて・・・
雪の壁を指で必死にかき分けると・・・
そこには・・・
「あれ?」
雪の壁の中にあったのは、石の地蔵の胴体で、車はそれに激突していたんだそうです。
そんははずはない。
自分は女の子を轢いてしまった筈なんだから・・・
そう思ってさらに雪を掻き分けてみたんですが・・・
女の子の体どころか、血すら出て来なかったそうなんです。
「おかしい・・・絶対におかしい・・・」
そう思ってさらに雪を掻き分けてみると・・・
そこには・・・
一本の看板がありました。
なんだろう・・・
勲さんがそう思って見てみると、そこには次のようなことが書かれていたそうです。
『この場所で、幼い女の子が轢き逃げされ亡くなり、遺体が雪の中に放置されていました。この女の子の魂の御冥福と、交通事故が無くなるようにとの祈りして、この場所に地蔵菩薩を建立しました。』
それを読んだ時・・・勲さんはフッと直感したそうです。
「ちょっと待てよ・・・もしかして・・・女の子を轢き殺して・・・そのまま逃げた犯人というのは・・・」
その数日後・・・
その犯人は逮捕されたそうです・・・
車を売ってくれた同級生の友達が・・・
話が終わり、陸斗はフッと蝋燭を吹き消した。
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